室生寺と龍穴神社

2018.7.26よしなしごと

白州正子の「私の古寺巡礼」を読んでから、長く室生寺に行ってみたいと思っていました。

室生寺は奈良の宇陀市にあり、近鉄電車、そしてバスで向かいます。
ところが、バスは一時間に一本しかなく、思案していたら、すぐ近くの大野寺を勧められたので、行って見ました。お寺のすぐそばの宇陀川がきれいに曲線を描いており、川の両側の岩場が美しく、また、磨崖仏もあり、ここは思いがけず素敵なところでした。

バスを室生寺前で降り、室生川にかかる朱塗りの太鼓橋を渡ると、「女人高野室生寺」の石碑が見えます。
梵字池、弁財天社もあり、金堂には、十一面観音像が置かれています。
木造の五重塔は、屋外にある五重塔としては、いちばん小さい塔と案内には書かれていましたが、千年を超える立派な建物でした。

ここから奥の院まで、幅の狭い石段が続きます。
杖も必要でした。400段あります。
かなり体力を要しますが、山岳寺院といわれるだけあって、立派な杉の木立に囲まれ、とても気持ちの良いものでした。
奥の院まで上がると、そこには空海の御影堂と七重石塔が見えます。

室生寺を後にし、近くの龍穴神社に寄ってみました。室生川に沿って歩くと着きます。
ご祭神は、タカオカミノ神と言います。京都の貴船神社のご祭神と同じです。

ここには樹齢千年を超える立派な杉の木がそびえたっています。
「連理の杉の木」もありました。
写真を撮っても、わたしの身長が、杉の木のほんの足元ぐらいまでしか、写りません。
空気感がまったく違う神社でした。

奥宮として、「吉祥龍穴800m」と案内がありました。
山道を歩いていると、鳥居があり、「天岩戸」がありました。
天照大神が隠れたであろう大きな岩が、二つに分かれてありました。

紅葉の季節に、京都南禅寺の近くにある、日向大神宮に行ったことがあります。
「ひむかいだいじんぐう」と読み、「京の伊勢」とも呼ばれている、とても由緒のある神宮です。
ここにも、「天の岩戸」があり、天照大神を外に引き出すために天の岩戸のそばに隠れていた、天手刀男神(あめのたぢからおのかみ)をお祀りする戸隠神社がありました。

龍神さまが住むという「龍穴」は、美しい滝のような流れとともに、拝殿の向こう岸にありました。

ルネッサンスダンスを踊った天正遣欧使節団

2018.7.25ダンス

来月8月1日から、第15回目となる世界バレエフェスティヴァルが、東京で始まります。
ノエラ・ポントワ、カルラ・フラッチ、マイヤ・プリセツカヤ、ジョルグ・ドンをはじめ、世界のトップダンサー、そしてベジャールの作品もこのフェスティヴァルがきっかけで一度に見ることができ、その感動は、いまも強く残っています。

現代バレエの元を辿っていくと、ルネッサンスやバロックの頃のダンスになりますが、16世紀に、このルネッサンスのダンスを目にし、体験した日本人がいます。

それは、天正遣欧使節で派遣された少年4人、伊藤マンショ、中浦ジュリアン、原マルチノ、そして千々石(ちぢわ)ミゲルでした。

1585年、使節団はイタリアのリヴォルノに到着しますが、そこはトスカーナ大公の管轄地であり、大公フランチェスコ1世は、彼らをピサの宮殿に招待し、夜には、トスカーナ大公妃、ビアンカ・カッペッロが舞踏会に招待しました。
当時、他のヨーロッパ王家に匹敵するほどの富と権力を持っていたトスカーナ大公国の舞踏会は、公式行事に招かれたと考えてもいいことでした。

ダンスは、みんなで踊ったあと、男性が女性をダンスに誘い、次に残された女性が、今度は男性を誘っていく、というスタイルで進みました。

この日は、大公の弟であるピエトロ・デ・メディチがエスコート役を務め、大公妃がその相手となり、ダンスがはじまりました。
次に大公妃は、伊藤マンショを相手役に選び、マンショは、別の貴婦人を選び、彼女は、千々石ミゲルを選ぶというふうに、原マルチノ、中浦ジュリアンと続いたのですが、最後のジュリアンが選んだ女性は、ダンスはまだ踊れるかしらという年配の女性をを選んでしまい、その場には、ほほえましい笑いが起こったと記録にあります。

実際にこの頃のダンスを踊ってみると、ステップは簡単なものであっても、大勢の人の注目の中、美しく踊り、また状況をよく見て、ふさわしいパートナーを選んでいくのは、なかなか緊張を強いられるものです。

きっとはじめて聞いたであろうルネッサンスダンスの音楽や、目にしたステップに戸惑いつつも、無作法にならないように気遣いを見せた少年たちは、立派だったと思います。

暑中お見舞い申し上げます

2018.7.23

タイトルのように、「暑中見舞い」のご挨拶ができるのは、今日、7月23日の「大暑」から8月6日の立秋までの期間です。

盛夏、極暑(ごくしょ)、炎暑など、きびしい暑さの極みのような言葉や、もっと直接的に、炎ゆ(もゆ)、暑し、と燃え盛るような、照りつけるような暑さを表現する言葉が、季語にはたくさんあります。

ずばり「大暑」という季語を使って、鈴木真砂女が とてもおいしそうな俳句を残しています。
くずもちの きな粉しめりし 大暑かな

芥川龍之介にも、作品があります。彼は、「我鬼」という俳号を持っていました。

兎も 片耳垂るる 大暑かな

もう一句、有名な夏の俳句があります。

青蛙 おのれも ペンキぬりたてか

はじめて読んだ時は、目がテンになりましたが、のちにこれは、ジュール・ルナールの「博物誌」のなかの一文、「青蜥蜴、ペンキ塗りたて ご用心」から句にした、本歌取りのような一句だと知りました。

ルナールは「にんじん」という小説で有名ですね。「にんじん」とあだ名を付けられた、赤毛の少年の心理を描いた作品で、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督が映画にもしました。

龍之介は、「河童」を最後に残し、亡くなりました。

明日、7月24日は、河童忌、龍之介の命日にあたります。