精進料理と村瀬明道尼

2018.2.6よしなしごと

テレビで、精進料理の特集番組を放送していました。
ふと以前に、村瀬明道尼(むらせ みょうどうに)さんのお料理を頂いたことを思い出しました。

明道尼さんは、NHKのドラマ「ほんまもん」で、野際陽子さん演じる尼さんのモデルだった方です。
ご自身が書かれた本を読んだり、インタビューでのおはなしぶりを見て、魅力を感じていました。
思い切って、お料理を頂きたいとお電話すると、直接ご本人が出てこられ、どぎまぎしてしまいました。低くしっかりとしたお声で予約の日時を確認すると、一呼吸置いて、「お約束しましたよ」と少しゆっくり目に言われ、電話を切られました。

秋の日に、約束の11時に滋賀県大津市の月心寺に向かうと、玄関は打ち水がしてあり、素朴な秋のお花の花屏風が置かれていました。
ご挨拶もそこそこに、すぐにお料理が始まりました。最初に出していただいたのが、明道尼さんの代名詞である「ごま豆腐」でした。夜明け前早くから、ごまを摺る時は、「観音経」を2回唱えながら、作られます。ごま豆腐は色も白く清らかに見え、たっぷりとした大きさで、とてもおいしく頂きました。その後、次々とお料理が運ばれてきましたが、吉兆の湯木貞一さんが明道尼さんの精進料理に一目置いておられたので、味付けを心して頂いたことでした。ご飯は栗ご飯にして下さっていました。
ふだん、よく食べる方ですが、量が多く食べきれずにいると、「折りに入れましょう」と言って下さり、きれいな折り詰めにして持たせて下さいました。

食後、お時間を下さって、親しくお話が出来ました。話題は子供の頃からの修行の事(9才で出家なさっています)、文机の筆掛けに大小の幾種類もの筆が掛かっており、左手で筆を取ることができたこと(若い頃、大きな事故に遭われています)など、本がお好きで、源氏物語が話題になったとき、どの女君に惹かれるかという問いに、すぐに六条御息所とうれしそうに答えられたのが、印象に残っています。

「かちん」は御所言葉です

2017.12.15よしなしごと

寒いときは、おうどんが食べたくなります。最近は炭水化物を控えるダイエットが広まっていますが、すぐにからだがあたたまるので、冬には一番ですね。

おうどんのメニューの中に、「かちんうどん」というのがあります。

「かちん」「おかちん」というのは、御所言葉で、おもちのことです。
御所言葉というのは、室町時代の宮中で、仕えていた女房の間で使われていたことばです。江戸時代になると将軍家に仕える女性から、町娘にまで広がっていきました。
女房言葉とも言われます。

現代の日本語にも、御所言葉が残っているものがあります。 

おさゆ   湯のこと
おひや   水のこと
おつゆ   おすまし、すまし汁のこと
おこうこ  漬物
うのはな  おから
おかか   かつおぶし
田作り   ごまめ
ぐじ    甘鯛
おまん   まんじゅう  
おせん   せんべいなど

関西では、名詞に「さん付け」をしたりしますね。
お豆さん、おいもさん(さつまいも)、おあげさん(油揚げ)、おいなりさん(いなりずし)など
これは、位の高い人の召し上がるものに対しての敬意からと考えられています。

食べ物以外にも、「さん」を付けます。
神さん、仏さん、かんのんさん(観音)、おてらさん(お坊さん)、お日さん(太陽)、お月さん(月)など
これも尊敬とそして親しみからでた表現とされています。

御所言葉をおもしろおかしく物語にした「延陽伯(えんようはく)」という落語があります。長屋のやもめに嫁がくることになり、若く美しいその女性は、京都のお公家さんのところで奉公していたとかで、やもめの男性には嫁の言葉がまったくわからず、おもしろいやりとりが展開するという話しです。
この「延陽伯」のはなしを元に、東京では、「たらちね」という落語があります。
関西の落語家で「延陽伯」を一席、いかがでしょうか。