「影をなくした男」とシューマン

2018.3.22よしなしごと

冬にもどったかのようなお天気ですね。
昨日も一昨日も、夜中は風の強く吹く音が聞こえていました。
部屋をあったかくして、本を読んでいます。

河合隼雄の「影の現象学」という本の中にも出てきますが、シャミッソーの「影をなくした男 ペーター・シュレミールの不思議な冒険」という、すこし、メルヘンのかおりのする、短編小説です。

もう200年以上も前のお話しで、シャミッソー自身も平らではない人生を送った人です。
フランスの貴族の子として生まれますが(1781~1838)、フランス革命で、貴族の位を剥奪され、亡命し、ベルリンに辿りつきます。
革命末期からのナポレオンの戦いがプロイセンに及び、ナポレオンに抵抗した彼は、プロシア軍仕官として、祖国フランスと戦います。
フランスとドイツを行き来しましたが、それは彼が9才のときからの、亡命と漂泊の日々といっていいと思います。

彼は、のちに植物を研究し、植物学者になりましたが、文学、詩人としてのシャミッソーの名前が、シューマンの作品にあります。

1840年、この年、シューマンはクララ・ヴィークと結婚しました。
シューマンは、歌曲を作曲します。
「詩人の恋」、「リーダークライス」、「女の愛と生涯」、この年は、シューマンにとって、結婚の年であり、歌曲の年でもありました。
この中の、「女の愛と生涯」の詩が、シャミッソーの手になるものでした。

エマニュエル・セイソンのハープ

2018.3.16音楽

セイソンはフランスの若い、とても魅力的なハープの演奏家です。

二年前、何も知らず、先入観なく聴いたセイソンのハープに、とても感動してしまいました。
最初に、バッハのフランス組曲3番を演奏したのですが、1曲目のアルマンドからくぎ付けとなってしまいました。

シュポーアのc-mollの幻想曲
チャイコフスキーのオペラ エフゲニー・オネーギンの主題による幻想曲
ベルリーニのオペラ    ノルマの主題による序奏と変奏
ドビュッシー  前奏曲集から  ヒースの茂る荒れ地
                亜麻色の髪の乙女   など

彼は、心打たれるのは、ロシア音楽とフランスの音楽、特にドビュッシーの音楽だと言います。その音楽の求める透明感が、ハープの音とよく響き合い、表情のゆたかさや影の部分まで表現することができるという、彼の音楽性が好きです。

ハープを少し勉強したことがありますが、こんなに深く、表現できる楽器とは、知りませんでした。

彼は、ことしの夏、日本にやって来ます。

梅と源氏物語の薫物

2018.3.14よしなしごと

梅を見に行ってきました。
毎年、梅を見に行くのですが、今年は、はじめて満開の梅を、目にすることができました。

梅を見ると、紫の上を思い出します。
源氏物語で、紫の上が好きな紅梅を、源氏の君と一緒に愛でるシーンがあります。普段は座っていたり、ひざ立ちの生活の紫の上が、六条院の庭に咲く梅を、
源氏とふたりで、立って眺めるシーンは素敵で、印象に残っています。

もうひとつ、源氏物語、32帖「梅枝(うめがえ)」の巻には、香の話しがでてきます。

明石の上の娘、明石の姫君の裳着、そして東宮に入内する準備に、薫物の調合をします。
平安時代は練り香でした。

源氏の君が調合したのは、「侍従」、そして4人の女性にも調合をさせました。
紫の上が調合した薫りは、「梅香(ばいか)」、花散里は、「荷葉(かよう)」、朝顔の君は、「黒方(くろぼう)」でした。 
明石の上は、練り香ではなく、薫衣香(くんえこう)という、着物に焚き染める香を作りました。

そこに、源氏の弟である、兵部卿の宮がやってきたので、どの香がすばらしいか、と判定をゆだねます。
「侍従」は、艶があり優美であると、「黒方」は、静かな趣きがすぐれていると、「荷葉」は、変わった気分がするが、なつかしい香りであると、
「梅花」は、若々しく、はなやかで、珍しく冴えた気の添っているものと、そして明石の君の薫衣香は、とても優美な香りといい、
どれも優劣が付けにくいと語ります。

そのあと、管弦の世界に入っていくのですが、香りを具体的に想像できるので、とても興味の持てる巻でもあります。

江戸時代に「組香」と言って、源氏物語54帖の巻名を図式化したものがありますが、「源氏香之図」は、デザイン性としてもすぐれていると思います。