ベートーヴェンとタッジオ

2018.12.21音楽

12月16日は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの誕生日でした。
ベートーヴェンが、ドイツのボンで生まれた1770年は、哲学者ヘーゲルが同年に生まれ、そして、ルイ16世とマリー・アントワネットが結婚した年でもありました。
フランス革命は、1789年に起こりました。
アメリカでは、1773年のボストンティーパーティーを契機に、アメリカ独立戦争へと向かっていき、1776年7月4日、アメリカは独立宣言をしました。

音楽の世界では、モーツァルトが1791年に亡くなるまでに、ベートーヴェンと一度出会ったというお話しが残っています。
ヨーロッパのスタイルは、バロック様式から、曲線が優美な、ロココへと移っていった時期でもありました。

そんなベートーヴェンの小曲、「エリーゼのために」が象徴的に使われた映画があります。
トーマス・マンの小説、「ヴェニスに死す」を原作に、ルキノ・ヴィスコンティ監督が、格調高く映像にしました。
原作では、主人公は作家の設定ですが、映画では、作曲家アッシェンバッハとして登場します。
グスタフ・マーラーを彷彿とさせる風貌のアッシェンバッハと、使われている音楽は、マーラーの交響曲第五番4楽章アダージェット、同じく交響曲3番の4楽章、さらに、ムソルグスキーの子守唄などもありますが、マーラーのアダージェットを聞くだけで、この映画の場面が立ち上がってきます。

芸術における美とはなにか、、
完璧な美しさと若さを持った貴族の少年、タッジオをはじめて見たときに、アッシェンバッハは強く惹かれてしまいます。
タッジオやその家族、特に母親の美しさや挙措に、本来の貴族の持つ雰囲気を感じたのは、ヴィスコンティ自身が貴族の出身であり、その生活から投影させたものかもしれません。

滞在しているヴェニスのホテルのサロンでピアノを弾くタッジオ。
エリーゼのメロディーを、片手で物憂げに弾くのですが、音色の美しさ、音と音とのあいだの静かな心情が、とても惹きつけられるシーンです。
続いて聞こえるエリーゼは、アッシェンバッハの回想として、そしてそれは、思い出したくなかったであろう、美とは対極のエリーゼが弾かれていました。

見る者の状況により、文学や音楽など、作品の印象は変わっていくものですが、この映画は、もともと見る側に、人生の時間と経験を要求するー成熟さを求めて作られたのかもしれません。
くり返し読むことはしなかった原作ですが、美しいタッジオやカメラワークに惹かれ、この先見続けたとき、何を見つけるのか、たのしみな映画といえます。

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